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1. SARS-CoV-2の膜タンパク質のプロセシングを制御する生薬エキスの探索 

 新型コロナウイルスの流行を受け、漢方薬や生薬のリポジショニング(既存薬の新しい効果)を志向した,SARS-CoV-2の膜タンパク質のプロセシングを抑制する生薬エキスの探索を行っています.COVID-19の原因ウイルスであるSARS-CoV-2の細胞内侵入の最初のステップはスパイクタンパク質(Sタンパク質)のプロセシングであり,Sタンパク質のプロセシング・活性化の後,宿主細胞との膜融合が行われます.当研究室では, 漢方薬などに用いられる生薬124種を用いて,プロセシングに影響を及ぼす生薬エキスの探索を行っています.

 これまで、生薬124種について, ウイルスの膜タンパクを切断する細胞内プロテアーゼの活性抑制効果をin vitroによるスクリーニングを実施し、生薬「ジャショウシ(蛇床子)」がプロテアーゼを抑制し、さらにジャショウシに含まれるオストールというクマリン骨格を有する化合物が強くプロテーゼ活性を抑制することを報告しています(Y. Kiba et al., Screening for inhibitory effects of crude drugs on furin-like enzymatic activities. Journal of Natural Medicines. (in press).  現在、培養細胞に膜タンパク質(S pike protein)を強制発現させると多くの核が集まった合胞体が形成されることに着目し、合胞体を抑制する生薬エキスの探索を行っています。

*2021-2022年度:科研費若手研究 研究課題21K15283「SARS-CoV-2の膜タンパク質のプロセシングを制御する生薬エキスの探索」

*2023-2024年度:科研費若手研究 研究課題23K14372「SARS-CoV-2 Sタンパク質による合胞体形成を生薬で制御する:作用分子機構の解明」

2. 迅速・簡便な食物アレルギー多項目同時診断デバイスの開発  

「食の安全を見る」ことをテーマとして、食物アレルギー鑑別法の開発を行っています。

 日本人の約10人に1人が食物アレルギーに罹患しているという報告があり、アナフィラキシーショックなどの重篤な症状に至る場合があります。このため、最終加工食品への微量な食物アレルギー物質の意図せぬ混入の防止対策や、食物アレルギー発症時には原因物質を迅速に特定し、早期に適切な治療を行う必要があります。私たちが開発する食物アレルギー物質(植物性アレルゲン:小麦、そば、落花生)の核酸検出技術と、共同研究先(豊橋技術科学大学 柴田教授研究グループ)が開発するマイクロ流体チップ(μTAS)テクノロジーを組み合わせ、新たな技術を社会に提供することを目的としています。複数種の食物アレルギー物質(植物性アレルゲン:小麦、そば、落花生)の検査を、1つの診断デバイス上(名刺サイズ)で迅速(1時間以内)かつオンサイトで実現する手法を確立し、食の安全・安心に資する技術を提供することを目指しています。

国立開発研究法人科学技術振興機構 A-STEPトライアウト 研究課題:  「迅速・簡便な食物アレルギー多項目同時診断デバイスの開発」2020年-2021年

*知の拠点あいち重点研究プロジェクトIV期  研究課題:「健康と食の安全・安心を守る多項目遺伝子自動検査装置の開発」2022年-2024年

 

 

3. アーユルヴェーダ薬物の研究①:クシャーラ・スートラの作用機序の解明 

 私たちの研究室ではインドの伝統医学、アーユルヴェーダの薬物の研究を行っています。アーユルヴェーダにはクシャーラ・スートラという痔瘻※治療に有効な薬糸があります。漢方薬と同様に古くからの臨床経験があるため日本の臨床でも使用されています。一方、作用機序は不明な点が多いため、薬力のコントロールや他薬剤の検討での評価が難しい現状です。私たちの研究室ではクシャーラ・スートラの作用機序をラット痔瘻モデルを用いて明らかにすることを目指しています。
※痔瘻:痔疾患の一種で、細菌感染が原因で肛門周辺に膿を排出する管ができる疾患

*2021-2022年度:科研費若手研究 研究課題名:「痔瘻治療における薬線クシャーラ・スートラの作用機構の解明」

*2023-2025年度:科研費若手研究 研究課題名:「痔瘻治療薬線Kshara Sutraの組織切断力に着目したin vitroの指標の確立」

薬用植物栽培研究:薬用植物園やフィールドワークを生かし、栽培研究を行っています。

~漢方生薬「茯苓(ブクリョウ)」の国産人工栽培法の開発~

漢方薬の原材料である「茯苓(ブクリョウ)」の人工栽培法に関する研究を行っています。茯苓はマツに寄生する真菌であり、生薬原材料の使用量では3番目に多い生薬です。

桂枝茯苓丸や五苓散などの漢方製剤に配剤され、主に利水薬として用いられています。茯苓は医療用漢方製剤の約三分の一に含まれており、漢方薬には欠かすことができない重要な生薬です。

この茯苓の生産は野生品の資源枯渇に伴い、中国では人工栽培により行われています。一方、日本では菌糸の成長速度が遅いため、安定的な人工栽培法が確立できていません。そこで、当研究室では菌糸の多様性に着目し、新しい菌糸系統を見つけるための研究を行っております。 

茯苓はトリュフと同じように菌核が地中に埋まっているため、発見するのは容易ではありません。トリュフは豚が探してくれますが、茯苓は人間が鉄製の錐を地中に刺して探す、「茯苓突き」と呼ばれる手法で採取が行われます。

私たちは、フィールドワークとDNA解析技術を組み合わせ、新たな茯苓探索法を開発すると共に、人工栽培法の確立を目指していきます。